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副業フェス2023
【副業フェス2023:イベントレポート5】「地域における副業や副業人材活用のリアル」
記事のまとめ
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地方副業に挑戦する理由は「ふるさとに住む人を幸せにしたい」
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地域企業にとって副業人材は「新しい風」である
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地域企業で副業するコツは、「目線を合わせる」「妄想する」「期待を調整する」
目次
パーソルキャリアが運営する副業・フリーランスマッチングプラットフォーム「HiPro Direct(ハイプロダイレクト)」は、“副業というはたらくの選択肢が当たり前”となる社会を実現するための一歩として「副業フェス2023」を開催しました。(2023年2月9日開催)
第二部の三つ目のセッションのテーマは、「地域における副業や副業人材活用のリアル」です。ベンチャーキャピタルでの広報と故郷の富山県でまち作り団体のメンバーを兼務している蓑口 恵美氏と、経営コンサルタントとして地域企業での副業を始めて独立した三宮 一輝氏が登壇しました。モデレーターはハイプロダイレクトゼネラルマネージャーで、宮城県出身の鈴木が務めます。
「地方副業」や「地域副業」といったキーワードで注目を集めている、副業の新しい形の最前線をお伝えします。
※第二部トークセッション セッション1レポートはこちら:「大企業における副業人材活用のリアル」を読む
※第二部トークセッション セッション2レポートはこちら:「スタートアップにおける副業人材活用のリアル」を読む
祖父世代を見て、多様なはたらき方に挑戦
鈴木:今日は「地方副業」について、さまざまな角度からお聞きしていきたいと思います。まず、お二人の自己紹介をお願いします。
蓑口:私は東京のスタートアップで広報を務めながら、富山県南砺(なんと)市のまち作り団体のメンバーを兼ねています。1年のうち8割を神奈川県横須賀市、残りを富山とオーストラリアで過ごしていて、富山のまち作りに関わるのは金曜日の3時間と決めて関わっています。
私のはたらき方は、一年を通して複数の仕事をしていた祖父の影響が大きいです。お米農家、旅行会社、そしてトラックの運転手など。ITを駆使して、祖父のようなはたらき方の令和版に挑戦しています。
三宮:私は企業の人事を20年務めた後に、5年ほど研修会社にて外部からのさまざまな企業の支援をしていました。2022年に副業を始めて、8ヶ月ほどした上で独立しました。現在は地域企業を中心に組織人事系のコンサルティングをしています。
地域の副業に踏み出したきっかけは「事業の失敗」
鈴木:お二人が地域での副業をするまでの経緯をお聞かせください。
三宮:私はもともと地方に関心があったわけではなく、「地方創生分野に国のお金がたくさん動いているな」と少し感じていたくらいでした。独立志向があり、教育事業を始めたものの上手くいかなかったんです。
鈴木:状況を打開したきっかけは何だったのでしょうか?
三宮:ビジネスパートナーから「自分の強みを活かした方がいい」とアドバイスされ、地方副業のプラットフォーム「Loino」(現:「HiPro Direct for Local」)を紹介してもらって地方副業に出会いました。
気軽に使えて、最初の案件が思ったよりもスムーズに決まって自信がついて、地方と関わる面白さや自分にとっての学びが多いことにも気づいたんです。
蓑口:私は30歳手前頃から、地元の富山県南砺(なんと)市に恩返しするためにはたらきたいと思っていました。地方の自治体の破綻のニュースや、帰省のたびに地元の商店が次々に閉まっていくのを目の当たりにして、東京に住みながら、知らない人に時間を捧げるのではなく、ふるさとに住む人を幸せにしたいと思うようになったんです。
始めた頃は地元で私の周りには親や中高の同級生しかいなくて、仕事の相談をしても話が進みませんでした。でも「誰か紹介してほしい」と言い続けたことで知り合いが増えていき、2年たった頃にようやく「報酬を払うので、仕事としてやって欲しい」という機会を得られました。
鈴木:どのような流れでお仕事になっていったのでしょうか?
蓑口:いきなり仕事の話をせずに、同級生と世間話をしながら困り事をヒアリングしました。そして、私の仕事や持っているスキルを、伝わる言葉に言い換えて伝えていったんです。徐々に仕事らしい会話に変わっていき、若い人材の獲得や売上増加についての相談を持ちかけられ、「地元の商品の販路を東京に広げたい」といった声が集まってくるようになりました。
鈴木:地域だからこそ、信頼関係が広がっていきやすい面もあるのでしょうか?
蓑口:「この人が言うんだったら紹介しても大丈夫」と信頼関係があるために、契約書もなく「じゃあ来月からよろしく!」みたいなことはありますね。
鈴木:“地方あるある”かもしれないですね。三宮さんも、副業の中で地域の繋がりを感じる場面はありましたか?
三宮:やはり信頼関係ができたことで、お客さんを紹介してもらえることはあります。あとは、相手に伝わる言葉で説明することの大切さは、とても共感しました。人との繋がりが広がっていくうえで大切なことですよね。
地方にとって副業人材は「新たな風」「希望の光」
鈴木:地域企業が副業人材に求めていることをお聞きしたいです。地域企業にとって、まだまだ副業者と働くイメージができていないのが実情だと思います。
三宮:「希望の光をちょっと照らす」こと、「なんとかなりそう」と思えるよう道筋を示すことが求められている役割だと思います。地方の中小企業は、ベンチャー企業と同じくらい、ゼロスタートに近い状況で、何をどうすればいいかわからない企業も多くあります。
蓑口:私は「風」の役割を求められていると思います。当初はUターンしてフルコミットを期待する声が多く、リモートワークや二拠点生活のスタイルは、中途半端に見えていたと思います。大雪が降って除雪が必要でも私は現地にはいませんし、新規事業でトラブルが起きても対応できません。
そんな時に信州大学の農学者・玉井 袈裟男さんの詩に出会いました。「土地で暮らす人は土、外からくる人は風で、和して文化を生むもの」ということが書かれていて、私が地方に貢献できる役割は「風」だと考えるようになりました。地元の仲間たちは土地に根を張って代々信頼と事業を積み重ねていて、風はタネを外に飛ばしていく存在。そこから地元の経営者たちと向き合う姿勢が変わり、周りの困りごとや、解決のための提案が見えてくるようになりました。
鈴木:地域で認めてもらうまでの試行錯誤やターニングポイントがあれば教えてもらえますか?
蓑口:私は地元なので下駄を履いている部分があると思います。それでも、誰の紹介なのかはとても重要ですね。仲間たちから人を紹介してもらっていき、地元で代々林業を営む方と繋がったところから、少しずつ景色が変わっていきました。新しい事例を学ぶ小さな勉強会を企画して、参加してくれた皆さんの喜びの声が周囲に届いて、「あの人が言うならミノさんも信頼できるね」と、興味を持ってもらえたみたいで。
鈴木:精一杯関わっていく中で信頼関係が作られていったんですね。
蓑口:そうですね。でも、私は好きなことをしてきただけなので、歯を食いしばって、「やりたくないことでも頑張った!」ということではないんです。仲間とできることを試してみて、「できた!楽しい!」みたいな時間が少しずつ広がっていった感じです(笑)。
地域企業と目線を合わせてスモールステップで進める
鈴木:地域企業で副業をする上でのポイントを教えていただきたいです。
三宮:目線や足並みを揃えながら、一歩ずつ共に歩むことを重視しています。リードして引っ張っていくことも時に必要ですが、東京の大企業と地方の中小企業では、はたらく環境のリソースやシステム、情報などに違いがあります。私たちが都会で当たり前だと思っていることも、地方では違う可能性があるという視点を持っていたいですね。
鈴木:都会と地域企業の違いは、副業をする前から理解されていたのでしょうか。それとも、実際に地域に入ってから気がついたのですか?
三宮:入ってからの気づきが大きいです。私のキャリアは、徐々に中小企業へと移ってきていたので、中小企業と大企業の違いはなんとなく理解していました。でも、地方にはまた違った特色があって、会話の中で思いがけない反応を得ることも多いんです。「ああ、こういう風に感じるのか」と理解を深めて、目線を調整しながら共に取り組んでいます。
蓑口:地域企業との仕事では、「妄想すること」と「期待値を下げること」を意識しています。例えば、「パッケージを変えたい」と相談してきたけど、本当の困り事は「商品の魅力のアピール方法がわからない」ことで。そもそもアクションがずれていることがあります。相談者自身も具体的な要望をわかっていないので、一緒にどこに向かいたいのかを妄想するんです。
「期待値を下げる」に関しては、言い換えると「手前のゴールを一緒に設定する」ということでしょうか。現在2人の子供を育てている私が地域の仕事にかけられる時間は金曜日の3時間のみです。その中で「これくらいならできるよ」と現実的に伝えています。10件クライアントを紹介できそうだとしても、あえてもう少し手前のゴールを設定し、3件にする。そうすることで成功も小さいですが、失敗も小さく、一緒に軌道修正しながら進められることで小さな成功体験を積み上げることができ、信頼関係や、意思疎通レベルを上げていくことができます。
最初から高い目標を掲げることはワクワクするけれど、これまで仕事をしてきた環境も近いがますし、私の場合は住んでいる場所も離れている分、小さなゴールを手前に置き、ズレがないように仕事をしていくことが大切だと考えています。
鈴木:地域の企業や経営者にとっても、副業者が何をできるのかわからない中で出会うケースが多いので、スモールステップで積み上げて関わり方を擦り合わせていくということですね。
地域副業は人に喜ばれる実感が大きい
鈴木:最後に、地域ではたらくことのやりがいや面白さを教えてください。
三宮:大きく3つあります。一つ目は、自分のスキルや経験が本当に困っている人に貢献できることです。2つ目は、副業では自分の考えを直接お客さまに提供できる点。大企業だと自分のアイデアが色々な人の意見によって形を変えていくということがどうしてもあります。最後は、地方ならではの魅力に触れられることです。暮らしや世界観に触れたり、美味しいものを食べられたり、毎回新鮮な発見がありますね。
蓑口:私は2つあります。一つ目は、目の前の人たちに喜んでもらえる手触り感のある仕事だということ。私の場合は故郷なので、関われること、地域を守ってくれている人たちが喜んでくれるのが嬉しいです。
蓑口:もう一つは、変化を体験できること。時代とともに求められるスキルは変わっていきますが、本業だとリスクもあるので挑戦しづらい人も多いと思います。
私は「無償でもいいからやらせてほしい」と言える環境だったこともあり、地方のフィールドは新しい挑戦をする場でもありました。コロナウィルスの影響が出始めて3ヶ月後には、地域のまちづくり団体のコンテンツ発信をオンラインに切り替えて、代表にYouTuberトレーニングをしてもらいました。仲間とともに今の時代の変化にスピード感を持って向き合うことは、私自身を強くしてくれているし、何より楽しいです。
編集後記
副業フェス2023の最後のセッションは、実践者だからわかる地方副業のリアルが明らかになりました。
蓑口氏と三宮氏が、実際に地方副業と呼べるようにお金を得られるようになった流れはそれぞれでしたが、ポイントに挙げていた点は「役割」でした。蓑口氏は「その地域の風になること」を意識しながら、具体的に「妄想すること」と「期待値を下げる」こと」を実践されています。三宮氏は「希望の光をちょっと照らす」こと、「なんとかなりそう」と思えるよう道筋を示すことを意識しています。
地方副業は「地元だから」「ゆかりのある地域だから」と、第一歩を踏み出しやすいはたらき方です。ぜひお二人の地方副業の始め方と進め方を参考に、挑戦してみてください。
以上をもちまして、オープニングトークを含めた全5つのセッションから「副業の今とリアル」を明らかにしました。出された視点は副業サイトを運営する立場、副業を実践する個人の立場、副業人材を活用する大企業とスタートアップの立場、そして注目が集まる地方副業に挑戦する個人と活用する地域の立場です。
これからも副業は広がっていくはずです。「HiPro Direct」はこれからも個人のスキルを解放し、「副業」というはたらき方と、企業の人材活用の選択肢が当たり前になるよう、情報を発信してまいります。
●その他のレポートはこちら
※オープニングトークセッションのレポートはこちら:「個人も企業も副業を選ぶ時代になっている理由」を読む
※第一部トークセッションのレポートはこちら:「副業のリアルを専門家と実践者が語る」を読む
※第二部トークセッション セッション1のレポートはこちら:「大企業における副業人材活用のリアルについて」を読む
※第二部トークセッション セッション2のレポートはこちら:「スタートアップにおける副業人材活用のリアル」を読む
(書き手:かたおか ゆい/編集:佐野 創太/監修:HiPro Direct編集部)