インタビュー
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新しい仕事環境になじむコツとは?実践に役立つ心構えや言動のポイント
記事のまとめ
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新しい仕事環境になじむためには、まず笑顔を意識し、先に自己開示をしてしまう
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雑談のコツは、『キドニトチカケ』。初対面では特に『キ』の気候、『ニ』のニュース、『ト』の土地の話題が効果的
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チームでプロジェクトを進めるとき、リーダーはなぜやるのかを伝え続け、メンバーは自分への期待値はどこかを意識してはたらくことが大事
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新しい仕事環境で良好な人間関係を作るためには、相手の会社の文化を尊重しつつも、気を使いすぎずに「何のための自分か」を大切にしながら自己開示していくこと
目次
はたらき方が多様化する現在では、雇用形態や立場の違う人たちがチームを組み、一つのプロジェクトに取り組むこともあるでしょう。
新しい仕事環境でチームを組む際には、初対面の印象を大事にしつつ、お互いの「期待値」を明確にしてチームメイキングをしていくべきだと、アカネアイデンティティズ株式会社CEOの加藤 茜愛さんは語ります。加藤さんは、大手航空会社で約30年間人材育成に携わり、現在も社員教育や社外取締役など複数の業務をこなし、チームを作り上げています。
副業などで新規のプロジェクトにジョインする際や、転職で新しい仕事環境に加わる際の心構えを加藤さんにくわしく伺いました。
職場になじむコツは笑顔と自己開示
――副業や転職で新しい仕事環境に入ったとき、すぐに信頼関係を築くには、どんなことに気をつけるとよいでしょうか?
加藤氏:やはり、初対面の印象は大事にした方がいいでしょう。自分が相手にどう見られたいのかをまず決めておかなければなりません。
たとえば、士業やコンサル業など、「先生」的な立場で現場に入る方は、威厳のある態度を示した方がいい場合もあるかもしれません。しかし、大半の方は、親しみやすくて仕事を頼みやすい印象を持ってもらったほうがいいでしょう。その場合、当然ですが笑顔でいることが大切です。初日から常に目元は緩やかに、口角を上げた表情で挨拶してみてください。初対面の挨拶では、真顔のままだと、「なんだか怖そう」という印象を与えかねません。
そして、初対面の際にはできる限り自己開示をするといいですね。たとえば、人見知りで自分から話しかけられないタイプの人であれば、あらかじめ「人見知りなところがありますが、ここでお役に立ちたいと思っています」と先に言ってしまうんです。うまく会話ができなくても、そういうタイプなんだと受け入れてもらいやすくなるでしょう。
――良好な関係を築きにくい相手がいた場合、どのように対応されていますか?
加藤氏:航空会社でCA(客室乗務員)をしていたころ、話しかけにくい印象のお客さまもいらっしゃいました。それでもあえて「いいお天気ですね」と声をかけます。
返事が返ってこなくても、「失礼いたしました。何かありましたらお声掛けくださいね」と言ってその場を離れればいいんです。きっかけを作っておいたことで、後から「ちょっといいですか」とお客さまの方から話しかけてくださることもありました。
こうしてきっかけを作っておくと、自分がその方を気にかけていることが伝わるので、相手も話しかけやすくなるでしょう。
航空会社内で伝わる雑談のコツ 『キドニトチカケ』
――新しい人間関係にうまく馴染むための、「雑談のコツ」はありますか?
加藤氏:良好なコミュニケーションの話題のきっかけとして、前職では代々『キドニトチカケ』を引き継いできました。
キは「気候」。いい天気ですね、最近温かくなってきましたね、などの話題です。ドは「道楽(趣味)」。カメラバックをお持ちの方には、カメラにはお詳しいのですか?など、その方の持ち物や趣味を話題にします。ニは「ニュース」。最近発生した事件などを話題にします。これは、ポジティブなニュースでもネガティブなニュースでも驚きましたね、など共感を生みやすいものです。トは「土地」。あそこの名産の○○はおいしいですよ、など、土地柄の話題です。チは「知人」、カは「家族」。○○さんはお元気ですか?お子さんはおいくつになられたのでしょう?など、プライベートを知る間柄であれば共通の知人や家族を話題にします。そして最後のケは「健康」。いつも姿勢がしゃんとしていらっしゃいますね、などです。
この『キドニトチカケ』のうち、どんな関係でもプライバシーを損なわず使いやすいのが季節、ニュース、土地の3つです。
――何気ない話題ですが、意外と関係を築くための突破口になってくれるのですね。
加藤氏:はい。航空会社に勤めていた際、仕事で失敗し、落ち込んだまま出勤した日がありました。そんなとき、先輩が「今日はすっごくいい天気だから、きっと富士山がよく見えるわよ!」と、声をかけてくださったことがありました。何気ない会話だったのですが、視点が変わり、フライトを楽しもうという気持ちに変化して、その先輩のことが好きになったことをよく覚えています。
話しかけてみて相手から返事がなければ、そこで無理に会話を続けようとしなくてもいいんです。まずはきっかけを作ることが大切です。
リーダーは「なぜやるのか」を伝え続け、メンバーは「期待値」を意識して動く
――初対面のメンバーでプロジェクトを進めなければならない場合、加藤さんならどのようにチームメイキングをしますか?
加藤氏:もし私自身がリーダーであれば、「なぜやるのか」をチームメイトに伝え続けます。「このプロジェクトはこういう目的でやっているので、あなたには○○をお願いしています。少しでも気になることがあったら、溜めずに言ってくださいね」と。1on1ミーティングをまめに実施し、「何のために」を見失うことなく互いに言いたいことを言える環境を整えます。
自分一人で背負いきれないときは、「この部分はあなたにお願いできる?」と、チームメイトに部分的にリーダーシップを発揮してもらうよう、依頼しておくと主体的に動いてもらうことができました。
――反対に、自分がリーダーではなく、チームの一員である場合には、どのような点に気を付けて動けばいいのでしょうか?
加藤氏:その場合は、チームの中で自分が何を求められているのか、「期待値」をしっかり確認します。自分の役割がはっきりわかったら、それを意識して動くこと。そしてうまくいっていない場合は、早めにリーダーに方向性を確認しましょう。言い出せずにためらっているうちに、雰囲気はどんどん思わぬ方向に向かってしまいますから。
――仕事上で上司と同僚などの間で板挟みになってしまった場合、どのように対応するのがよいのでしょうか?
加藤氏:大切なことは、どちらか一方に傾きすぎないことです。たとえば、同僚から上司に対する愚痴や批判を聞いた場合、安易に同調すると同僚と同じ「仲間」になってしまい、「あの人もこう言っていた」と言われかねません。それに、立場が変われば見方も変わるので、どちらが悪いと決めつけるべきではないでしょう。
相手の気持ちに共感しつつ、同調はしない。起こっている物事と感情は切り離し、双方の話を聞くことが大切です。人の数だけ正義がある、ということをわかっている方がいいでしょう。
――最近では、オンライン上のやり取りだけで仕事を進める場合もあります。オンラインでのコミュニケーションを円滑にするためには、どのようなことに気を付ければいいのでしょうか?
加藤氏:オンラインで仕事を進めるときには、TPOによって対応が変わります。
たとえばオンラインミーティングが、メンバーのコミュニケーションを図るためのものであれば、「後ろ姿を見せる=背景や状況を説明しておく」といいでしょう。対面で会うときと違い、オンライン上のやり取りでは相手の人柄やその時の気分や環境が見えにくいので、あえて自分から伝えておくのです。
「自宅なので途中で宅急便が来るかもしれませんが、ごめんなさい」「外の音がうるさくて聞こえなかったら、遠慮なく言ってくださいね」などと伝えておくと、平面的なオンラインの画面だけのコミュニケーションだけではなく自分の「後ろ姿」を相手に伝えることができ、その場を少しなごませられるように思います。
またビデオ通話の背景は、自宅の様子がわかる場合、整理しておくか、あるいはバーチャル背景で柔らかな雰囲気の背景にしておくといいでしょう。
――仕事の面談や自社サービスのプレゼンなど、重要な場面でもオンラインで実施されることもあります。その場合、どのようなことに気を付けるべきでしょうか?
加藤氏:オフィシャルの場合は、ある程度緊張感のある雰囲気づくりをした方がいいでしょう。
以前、私が仲介者となって、私のお客さまにとある会社のサービスを紹介しようとした際、失敗してしまったことがあります。私のお客さまは、企業内で決定権を持つ立場の方でした。
お客さまは会社を代表し、緊張感をもってオンラインでの面談に臨んでいました。対して、仲介相手の一人であるサービスのプレゼン担当者が、整然とは言えない自宅を画面背景に映したまま面談に臨んできたのです。後日お客さまより、「サービス云々よりも、担当者の心構えが残念だった」と、思いがけないことが期待値を下げてしまう印象になるという学びの機会となりました。
たとえオンラインミーティングや面談でも、オフィシャルな場では背後に何も映り込まないよう白い背景にするか、もしくは会社のロゴやQRコードの入った所定のものにするなど、生活感をあえて出さないようにして、面談にフォーカスできるような雰囲気で臨むべきでしょう。
相手を知り、社内文化を尊重しつつも、遠慮しすぎないこと
――副業や転職をする際には、すぐに仕事になじむため、どのような態度、心構えが必要でしょうか?
加藤氏:やはり、その会社のことを調べられるだけ調べておくことが大切です。あらかじめHP(ホームページ)をチェックして、その会社の価値観や風土、文化のようなものを、しっかりと知ってから現場に入るといいでしょう。
事前に調べておくと、会話のヒントになることもあります。「HPにあった、こんな言葉にとても共感しました」などと、自己紹介のときに感想をお伝えして、その会社の文化になじんで行きたいという気持ちを示すのです。
また、特に副業でプロジェクトに入る場合は自分が何のためにプロジェクトに参加しているのか、相手が自分に求めている期待値を確認しておきましょう。このプロジェクトで自分がどんな役割を果たすべきかを確認し、チームとしてのゴールはどこかをあらかじめ共有しておくことをお勧めします。
――相手の会社をあらかじめ調べて相手に合わせることと、自分の役割を意識することが重要なのですね。
加藤氏:はい。しかし、遠慮しすぎないことも大切です。特に副業は、期間限定で結果を出すという目的があります。あまり周囲に気をつかいすぎると、本来のパフォーマンスが発揮できなくなってしまいます。
相手の会社をよく調べ、その文化を大切にすることと、相手が自分に求めている期待値を確認すること、そして十分にパフォーマンスを発揮するために気をつかいすぎないこと。この3つを意識してみてください。
――プロジェクトは、正社員、派遣社員、業務委託、パート、副業者など背景が異なるメンバーで編成されていることもあります。一丸となって一つのプロジェクトに取り組む際、どのような点に注意すべきですか?
加藤氏:契約形態が違うと、摩擦が生まれやすくなります。たとえば、プロジェクト単位で動くメンバーと、時間単位で業務を遂行しなければならないメンバーが、一緒の仕事に取り組むとします。一方のメンバーが時間内に決められた量を終わらせるため、必死に業務に取り組んでいる横で、ある程度自分の裁量で仕事を進められ、時間に余裕のあるメンバーが雑談ばかりしていたら、前者のメンバーは不快な気持ちになりますよね。
その様子を見て、他の人たちが嫌な気分になることもあるでしょう。その小さな摩擦を解きほぐすのが、気づかいの言葉です。
誰かがストレスを感じているな、と気づいたら、ぜひストレスを感じているメンバーに対し「なにかわからないことがあったら声をかけてね」と、みんなに聞こえる声の大きさで伝えましょう。そうすることで、雑談をしていた他のメンバーも、自分たちがストレスを与えていることに気がつくでしょう。
逆に、雑談にストレスを感じているのであれば、話を振られた際に、「ごめんなさい、私も話したいんですけど、今日はどうしてもここまで終わらせなくてはならないんです」と素直に自分の置かれている状況を伝えるようにしましょう。相手は自分たちとの契約形態の違いに気づいていないだけ、ということもあります。
お互いの小さな気づかいで、それを共感できるように伝え合い、行動を正していけば、摩擦は少なくなるでしょう。
――お互いが相手の立場に立って考え、ときには相手に気づかいの言葉をかけることが大切なのですね。
加藤氏:本来雇用形態が異なるからといって、人の優劣はありません。例えば私自身も、仕事で相手企業に入っていく際にただの業者扱い、下請けなんだから、という印象を受けたら、当然その企業での仕事へのモチベーションは低くなってしまいます。
はたらき方が多様になった現在、一つの現場には、多様な立場や考え方の人がいます。だからこそお互いが理解し合って気づかいの声をかけつつも、過大な気づかいをしすぎず、一人ひとりが最高のパフォーマンスを出せるようなチームを作っていけたらいいですね。
(書き手:宮﨑 まきこ/編集:永見 薫)
<プロフィール>
加藤 茜愛 (アカネ)
アカネアイデンティティズ株式会社 C.E.O/研修講師/講演家/会社役員
元大手国内エアラインCA管理職、及び10年以上に渡る研修講師経験をもとに、社員が仕事で成長し相互尊重できる組織の強さを実感。人と組織が時代の流れにのまれずに、その人らしく輝ける組織創りのためのコンサルティングに定評がある。東証プライム企業の社外取締役も務めている。人的資本経営コンサルタント、GLOBIS経営大学院 経営学修士(MBA)、国家資格キャリアコンサルタント、GCDF公認キャリアコンサルタント。著書「ANAのVIP担当者に代々伝わる言いにくいことを言わずに相手を動かす魔法の伝え方」(サンマーク出版)がある。当該書籍はアジアでの翻訳出版もされ多くの人に読まれている。さらに、2019年にタイトルをあらためて「ANAのVIP担当者に代々伝わる心を動かす魔法の話し方」(サンマーク文庫)として再出版された。