インタビュー
|副業・兼業
はたらき方
本来あるべきは「相互利益の関係性」企業取締役と副業の両立者が語る、副業の理想像
記事のまとめ
-
ワーク・ライフバランスコンサルタントである大塚万紀子さんは、本業の取締役と社外取締役、副業のパーソナルコーチを「9:1」の割合で行なっている
-
副業を始めるにあたり一年以上悩み葛藤したが、外の世界ではたらいたことで、本業の魅力を再発見した
-
本業と副業、子育てを両立しながらも、週末はしっかりと休み、趣味である観劇やライブ鑑賞の時間も確保。その背景には、残業禁止や有給100%取得というワーク・ライフバランス独自のはたらき方ルールや休日制度「新しい休み」の存在がある
-
主・副の「副」ではなく、本業と副業の「複数」が重なり合って相互利益の関係性をつくっていくのが副業の本来あるべき姿だと、大塚さんは考えている
目次
副業実践者は増えています。しかし、副業と本業の相関性について考えている人はどれほどいるのでしょうか。副業実践者の一人である、株式会社ワーク・ライフバランスの取締役兼コンサルタントの大塚 万紀子さんは「本業の名刺がないからこそ、あらためて本業の魅力を知ることができました」と話します。
大塚さんは2006年に、代表の小室 淑恵さんとともに同社を設立。日本に“ワーク・ライフバランス”の考え方を浸透させた、働き方改革の先駆者です。新卒で大手IT企業に入社し、28歳で小室さんと株式会社ワーク・ライフバランスを共同創業しました。順調にキャリアを積み重ねてきた大塚さんですが、数年前から新たな副業にチャレンジしているそうです。会社役員を務めながらもなぜ、副業を始めようと思ったのでしょうか。大塚さんに本業と副業の実践について現在の姿と、相互に実践することで生まれるメリットについてお聞きしました。
本業と副業の割合は「9:1」。1割で本業では叶えられないことを実現していく
——大塚さんの現在のはたらき方について教えてください
大塚氏:私の本業は、株式会社ワーク・ライフバランスで、取締役兼コンサルタントとしてさまざまな役割を果たすことです。これが現在の仕事の軸となっています。
その他複数社の社外取締役として、月に数日間、経営幹部として社外の事業に携わったり、都道府県の委員会に出席したりもしています。
また個人の事業として、MBTI®︎認定ユーザー(ユングのタイプ論をベースとした性格検査を扱う資格)や生涯学習開発財団認定コーチ、DiSC®認定ファシリテーター(人の性格・特性や行動パターンをもとにした適切なコミュニケーション方法を扱う資格)といった心理学系の資格を取得しており、それを活かしたパーソナルコーチングの仕事を3年ほど前に始めました。
大塚氏:割合としてはワーク・ライフバランスの仕事が約7割、社外取締役の仕事が約2割。社外取締役仕事は、本業と同じ働き方改革や女性活躍推進などについてのご相談ごとを承っています。そのため、本来は社外取締役も副業に値するのですが、私の感覚では、最後の1割であるパーソナルコーチの仕事が「副業」と言えるのではないかと思います。
——パーソナルコーチングの副業は、何をきっかけに始められたのですか。
大塚氏:公認心理士の友人と、「いつか一緒にクライアントの内面をサポートする仕事をしたいね」とお話しをしていたんです。そうしたタイミングである経営者の方から「コーチングをしてもらえないか?」というお声がかかったため、「じゃあ、チームとしてやりましょう」とスタートしました。
近視眼的な視点で選んでいないか。自身に問う必要がある「副業」
——副業を決意されたものの、心配ごとや懸念はありましたか?
大塚氏:副業を始めるにあたって、私が一番丁寧に考えたのは「ワーク・ライフバランスのメンバーにどう伝えるか」ということです。仮に伝えたところで、実際にやっている姿を見せないことには、メンバーも判断しづらいと思ったのです。
そこで「副業をしたい」という思いを小室に相談すると「役員であるあなたが『やりたいことができない』と感じてしまうと、メンバーにも伝わり、組織全体にとって良くない。副業先で得た学びを社内に発信することで、メンバーの副業に対する意識や捉え方がポジティブに変わっていくと思う。いいロールモデルになってね!」と後押ししてくれました。
ただそれでも、「楽しそうだから」「お金が増えるから」……といった近視眼的な視点で始めようとしていないだろうか?と、何度も自分に問いかけました。一年近く悩み、「違うな」と思えたからこそ、メンバーが疑問に思わないよう調整をしながら進めてきましたね。とはいえ、あまりうまく伝えられた自信はないのですが……みんなの理解力が素晴らしかったおかげで今があると思います(笑)。
——そう、ご自身に問いかけた理由は何ですか?
大塚氏:ワーク・ライフバランスを立ち上げたとき、小室と「人生全体で捉えよう」という話をよくしたんです。今日1日だけの人生ではなくて、人生は続いていく。また、私だけでなく、上司にも部下にも人生があるわけです。では、みんなの人生がお互いにwin-winになるには何ができる? と考えるのが、私たちワーク・ライフバランスの仕事です。
そうした意味で、私にとっての副業はあくまでも「本業」という大きなミッションの中にあり、人生に彩りを添えてくれる存在。本業で成果を上げるために、副業で得られたことを活かす。そうしたシナジーがないとおもしろくないよね、という思いがあったからです。
——ご自身が副業を始めてみて、得られたものはありますか?
大塚氏:それはもう、数え切れないくらいにたくさんあります!なかでも一番メリットに感じたのは、本業の組織外で副業をしたからこそ、本業のおもしろさや大切さが身に沁みた、ということです。
たとえば副業先では、普段本業の場で当たり前に話をしている”ワーク・ライフバランス”の話題が理解されにくいことがあるんです。こういうときには、「まだまだだな」と本業のはちまきを締め直すこともあります。
一方で、私の本業が”ワーク・ライフバランスの推進企業”であることをご存知なく、「ワーク・ライフバランスって大切ですよね」とお話ししてくださるお客さまもいらっしゃいます。そういう時に「ああ、すごい!”ワーク・ライフバランス”の概念が浸透していっている!」と、評価いただいたような気持ちになります。
これは、私が本業の肩書を背負わずに知ることができた、「他者から見た本業の真実」であり、副業を経験したからこそ得られた経験だと思います。
副業は「ワーク・ライフシナジーを体現するための機会」として活用
——会社役員、社外取締役、副業を並行して進める生活は、とてもお忙しそうです。一日はどんなふうに過ごされているのですか?
大塚氏:当社には「能力を発揮できるやり方は一人一人違う」という考えがベースにあるため、残業原則禁止、有給100%取得といったルールのほかに、個人で自由に使える「新しい休み」が年間36日分あります。私はこの休日を副業に充てているので、土日祝日はしっかり休みますし、週の労働時間も法定の40時間を超えないよう調整することができています。
平日も、副業に充てる時間は30分から40分ほど。提案書や資料づくりは、副業先でともに動いている公認心理士の友人と分担しているため、時間をかけて作業に没頭しすぎることはありません。ワーク・ライフバランスの就業時間は9時半から18時まで、かつコロナ禍を経て今は在宅勤務が基本ですので、始業前には大好きなピラティスや読書の時間も取れています。
夜19時前には思春期真っただ中の娘たちを「晩ごはんだよ〜!」と呼びますし、彼女たちに予定があるときは私一人の時間も楽しみます。時々は観劇やライブ鑑賞のために夜も外出するので、そもそもあまり家にいないかもしれません(笑)。「劇場に足を運んでリアルなものを浴びる」というのが、私の大事なエネルギー源なんです。
本業に7.5時間集中して挑むために、心身ともにコンディションを100%にしておくことへの投資は、時間的にも費用的にも惜しまないようにしています。
——土日祝日にしっかり休み、かつ趣味の時間も取られていることに驚きました
大塚氏:私、推しがいっぱいいるんです。歌劇団やバンド、アート鑑賞、歌舞伎……。推しが稼働しているときは遠征にも行っちゃいますし、もう本当に毎日忙しい。もちろん仕事は頑張りますし、いつでも部下に助け船を出せるよう節度を持って楽しんでいます。しかし私にとって人生の優先順位の一番は仕事はもちろんのこと、他にもたくさんありますから。
何かを得る代わりに何かを失うのではなく、「ワーク・ライフシナジーを体現するための機会」として活用するのが、本来あるべき副業の姿だと私は思っています。
副業が解禁し今後もさらに広がっていくなかで、副業をする側も「本来あるべき副業」に対する意識を高く持つべきではないでしょうか。主・副と位置付けを分けて定義されており、言葉もそのように使われています。しかしそうではなく、「複数」が重なり合って相互利益の関係性をつくっていくことを、私自身も大切にしたいですね。
(書き手:原 由希奈 / 編集:永見 薫)
大塚 万紀子
株式会社ワーク・ライフバランス 取締役・パートナーコンサルタント
大学院卒業後、新卒で楽天株式会社に入社。その後2006年に、株式会社ワーク・ライフバランスを小室 淑恵とともに創業。高いコミュニケーション力やコーチングスキルを生かし、売上利益に貢献するさまざまな働き方改革を効率的に遂行するコンサルティングの先駆者。心理学や組織論等をもとに多様性をイノベーションにつなげることが得意。経営者から“深層心理まで理解し寄り添いながらも背中を押してくれる良き伴走者”と厚い信頼を得る。副業実践者でもあり、個人の事業としてパーソナルコーチング専門「Office Bouquet(オフィス ブーケ)」を営む。二児の母。