インタビュー
|副業・兼業
はたらき方
時間は「つくる」ものではなく「空けておく」。仕事時間を捻出する思考法とは?
記事のまとめ
-
時間の捻出よりもまず先に、「なぜ複業をするのか」という目的が大事。時間はつくるものではなく、「空けておくもの」「余白」という意識を持つ。
-
モヤモヤする「キャリア不安」は、越境するとスッキリする
-
組織を強くする人は、複業などに挑戦する越境者である
副業を容認する企業が増えている一方で、実際に副業を実施している人は、8.4%(※)という調査結果が出ています。副業実践者は徐々に増えていますが、一歩を踏み出せない人もまだまだ多いのが現状です。
(※参照元:転職サービス「doda(デューダ)」:副業の実態調査【最新版】副業している人は8.4%、2年連続で増加)
その原因の一つに、「時間の問題」が考えられます。会社に勤務している場合、業務時間外もしくは休日に副業をすることになります。仕事が終わったあとも、家事や育児などやるべきことがたくさんある中で、時間をつくるのはなかなか難しいものです。
本記事では「専業禁止」を理念に掲げ「従業員の副業経験者6割超え」「従業員の3割〜5割が副業中」という時代の最先端をいく株式会社エンファクトリーの代表取締役・加藤 健太さんに副業に向かうマインドや時間の思考法について、お話を伺いました。
▼前編の記事はコチラ
“差分がある副業”で養われる「シェアードリーダーシップ」を発揮するための技術とは?
時間は「つくる」ではなく「空けておく」感覚
――副業が進まない理由の一つに、「時間がない」という問題が挙げられます。加藤さんはどのようにお考えですか?
加藤氏:たしかに、時間がないという話はよく聞きます。本業で働きながら、複業の時間をどのように捻出するかに苦戦している方が多いようです。でも、私は時間よりもむしろ「気持ちの問題」だと考えています。例えばコロナ禍をきっかけにリモートワークが導入され、通勤や帰宅に使っていた時間が削減された人はいるのではないでしょうか。
――「気持ちの問題」とは、どのような意味を持つのでしょうか?
加藤氏:「なぜ複業をしたいのか」を明らかにして、その動機が自分にとって優先順位の高いものであれば、おのずと「複業するように動き出す」ということです。「時間があるから複業をする」のではなく「複業がしたい理由があるから時間が見つかる」といった感覚です。
内職的なものからや隙間時間にはたらくものまで、複業の形はどんどん増えています。他にも、企業で長く仕事をして得た経験やスキルを生かしてプロジェクトにコミットするものなど、複業は幅広くなっているため、いろいろな考えを持った人が複業できるように環境は整い始めています。
自分にはどのようなスキルがあるのか、いまどのライフステージにいるのか、どれだけ時間が使えるのか、これは人によって千差万別です。シンプルにお金を稼ぐためにやるのか、それとも今後のキャリア形成のためにやるのかでも選択が変わってきます。
「自分がどうしたいのか」と「持っているスキル」の両輪で考えていけば、自ずと「自分がしたい複業の形」が時間も含めて見えてくるはずです。
――とはいえ、副業の目的が明確になっても、時間を捻出するのは簡単でないように感じます。加藤さんは、どのようにして時間をつくっていますか?
加藤氏:そうですよね。時間はつくろうとしても、なかなか思うようにはいきません。私の場合は、時間をつくるというよりも「空けておく」という「余白」のようなものです。
――時間を空けておく感覚とはどのようなものなのか、詳しく教えてください
加藤氏:先を予測して先手を打っておくのです。私の場合ですが、会社や従業員の状況を見ておき、今後発生しそうな仕事を予測して、あらかじめ対策を講じています。「緊急かつ重要な仕事」に追われないようにしなければなりません。
そのためには、時間軸を広げて眺め、「重要だけど緊急ではない仕事」に先手を打っておくのです。そうすると、おのずと時間は空いていきます。すると、何があっても対応できるというか、心に余裕が生まれます。そうして空いた時間でいろいろなものに飛びついたり、誘いに乗ってみたりしていますね。
副業だけじゃない。本業のモヤモヤは、「越境」で払拭できる
――加藤さんは、いま本業以外で取り組んでみたいと思っていることはありますか?
加藤氏:これまでの経験を生かして、中小企業の方々のお手伝いがしたいと考えています。いまも、知人の会社などに協力していますが、報酬はいただいていません。相談にのったり、人をつないであげたり、できる範囲で貢献しています。それぐらいは世の中のためにやっていきたいという気持ちはありますね。
――「副業をやってみるとよいかも」と思う人は、どんな人ですか?
加藤氏:「このままで自分は大丈夫なんだろうか」「この会社にいて何が得られるんだろうか」といった、モヤモヤを抱えている人は、複業をやってみるのもよいのではないでしょうか。
――その理由を教えてください
「このままでいいんだろうか」などの現在の悩みは、これまでの限られた情報と経験値だけで処理しようとしているので発生します。でも、解決できないからもやもやする。だったら、自分の世界を広げてみることです。
たとえば、ずっと同じ会社ではたらいていると、いつの間にかそこでのやり方が常識になります。それが複業先の会社では、一人何役もこなしたり、まったく異なるスピード感で業務が進んだりするのを目の当たりにします。良い意味で常識がひっくり返るような驚きの連続体験から、新たな気付きを得る可能性は大いにあります。
――何かを変えたいと思ったら、環境を変えることが一つの手段になりますね
加藤氏:おっしゃる通りです。何も「複業」の枠に囚われる必要はありません。
複業だとハードルが高いと感じる人は、「越境」がおすすめです。プロボノや地域の取り組みに顔を出すなどでもよいと思います。立場が変わって、考え方や価値観が変わる驚きの連続体験をたくさんできます。
企業に所属している人が、複業をしようと思ったら、業務時間外か休日しかありません。そう考えると趣味と一緒です。まずは、そのぐらい気楽に、まったく違う世界を見てみると広がりが出てくるのではないでしょうか。
チャレンジする人が、組織を強くする
――これからも副業したい人は増えていくと思いますか?
加藤氏:間違いなく増えてくるのではないでしょうか。
これからは教育・仕事・老後の3ステージからマルチステージにシフトしていきます。一人がさまざまなキャリアを持ち、多様な人生を形成していく時代です。いまは、いろいろなサービスができて、個人ができることが増えてきましたよね。100人100通りの生き方ができるようになってきます。
――企業側はどうでしょうか?はたらく個人も企業の動きを知っておくと、副業のチャンスを掴みやすくなるように思います
加藤氏:企業における複業の需要も高まってくると予想しています。生産年齢人口が減少する中で、企業側も正社員の採用が難しくなっていきます。そういう時代に、マルチステージを生きる人たちが増えて、期間が区切られているプロジェクトベースで人を活用する機会も増えてくると思います。
――副業へのニーズが高まる中、企業はどのように変わっていくのでしょうか?
加藤氏:企業は、プロ人材などの外部の人材をうまく活用できる環境を整える必要があります。これまで自社で仕事を完結していた会社と、外部の人材を上手に活用していた会社を比較すると差が出てくるのではないでしょうか。
自社に複業人材を迎える。自社の社員に複業や越境を推奨する。両方を推進する会社が強くなります。
――個人は、外部の人材を活用する企業としない企業には、どんな差が生まれると認識しておくと良いでしょうか?
加藤氏:自社だけの知見で難易度が高まりつつあるビジネスの課題に取り組むのか、自社の社員が複業を体験することで得た知見をもとに取り組むのか。これが知っておくべき差ですよね。反対に、外部から複業人材を受け入れて、社内に新しい考え方をもたらせられるか否かという視点も必要です。
個人が複業することで、これまでの考え方や経験で解決できないキャリアのモヤモヤを払拭するように、企業もいままでの仕事の進め方や社内のオペレーションで解決できない経営課題を解決できるようになります。
――個人が会社に与えられるインパクトは、副業をすることでさらに大きくなりそうですね
加藤氏:複業をはじめとした越境にチャレンジする人が増えてくると、個人はもちろん
、組織も活性化し強くなっていくのです。
(書き手:コクブ サトシ/編集:佐野 創太)
加藤 健太
株式会社エンファクトリー 代表取締役社長
リクルートを経て、All Aboutの創業メンバーとして財務、総務、人事、広報、営業企画など裏方周りのあらゆることを担当し、取締役兼CFOとして2005年に IPO。その後、現在の株式会社エンファクトリーを分社し代表に就任。エンファクトリーでは「ローカルプレナーのための自己実現ターミナルの創造」を目指し、また、社内では「専業禁止!!」という人材ポリシーを打ち出して、関わる人々すべての「生きるを、デザイン。」を応援中。