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“差分がある副業”で養われる「シェアードリーダーシップ」を発揮するための技術とは?

記事のまとめ

  • 今求められているリーダーシップは、「メンバーがリーダーシップを発揮できる土壌をつくる」ことを支える「シェアードリーダーシップ」型へ

  • リーダーシップは複業をはじめとした“差分がある体験”で養われる

  • ミドル・シニアのキャリアの二大不安である「会社への不安」と「自分への不安」は、「寝た子」を起こして行動すると解消に向かう

「専業禁止」を理念に掲げ従業員の3~5割が副業を実施しているという、時代の最先端をいく会社があります。株式会社エンファクトリーです。同社は「複業留学」という、自社業務を行いながらベンチャー企業ではたらける「越境活動」を促すサービスを展開しています。

同社の代表取締役社長の加藤 健太さんは、「リーダーシップの形が変わってきている」と話します。いつもの職場(ホーム)とそれ以外(アウェイ)を行ったり来たりする越境活動を通じて、他社ではたらくからこそ身につく「リーダーシップ」とは何なのでしょうか?副業で身につくリーダーシップや副業の選び方について伺いました。

自分の人生のハンドルを握る

――複業留学とは、どのような事業ですか?

加藤氏:複業留学は、当社が2020年から提供している、越境学習のひとつです。越境学習とは、いつもの職場(ホーム)とそれ以外(アウェイ)を行ったり来たりする学習方法のこと。たとえば、大企業からスピード感のあるベンチャー企業に社員を送り、そこでのプロジェクトを通して、さまざまなことを学びます。期間は約3カ月間、週に1日程度、アウェイで仕事をしていただきます。お客様のニーズにあわせて留学先企業を探したり、留学生の伴奏をしたりするのが私たちの仕事です。

――どうしてこの事業を始めようと思ったのですか?

加藤氏:当社は、2010年に設立したのですが、その時に「専業禁止」を掲げて、複業を推進しています。従業員の複業経験者は6割を超えており、常時3割〜5割が何らかの複業を行っています。まず、そこで得た知見を社会の役に立てたいと思ったのがひとつ。それから、さまざまな企業が複業を解禁していますが、なかなか進んでいない現状があります。このような流れの中で、個人が主体的・自律的にキャリアを考えていくきっかけを提供していきたいとの思いから、複業留学を始めました。

――専業禁止は、おもしろいですね

加藤氏:今は、さまざまな複業のマッチングサービスができて、個人でできることが増えてきましたよね。一方で、企業の終身雇用は崩壊し、個人と企業の関係がイーブンになってきています。このような状況下で、自分の人生のハンドルを握っていくことは、個人にとってすごく大事なことです。また、新しい事業やサービスをつくっていかなければいけない時代に、キャリアオーナーシップをもった人材がいると企業も活性化してくるのです。だから、メンバーにはやりたいことをどんどんやってほしいです。

――複業留学に参加した方の反応はいかがですか?

加藤氏:ずっと同じ会社ではたらいていると、いつの間にかそこでのやり方が常識になります。それが留学先の会社では、一人何役もこなしたり、まったく異なるスピード感で業務が進んだりするのを目の当たりにして、いい意味で常識がひっくり返ります。「こんな考え方があるんだ」「こんな進め方があるんだ」といった、気づきの声をたくさん聞いています。

リーダーシップとは「メンバーがリーダーシップを発揮できる土壌をつくる」こと

――加藤さんは「複業留学」を通じて成長される方をたくさん見ていらっしゃいます。他社ではたらくからこそ身につく「リーダーシップ」に焦点を当てると、それはどんなものだとお考えでしょうか?

加藤氏:上下関係なく得意分野で各メンバーがリーダーシップを発揮する「シェアードリーダーシップ(shared leadership)」という言葉が、今こそ求められています。現在はリーダーだけでなく、一人ひとりがリーダーシップを持ち、組織全体としてリーダーシップを発揮していくことが求められる時代です。

たとえば、複業留学には管理職の方も参加しますが、留学先では一人のメンバーとしてチームに所属しプロジェクトを遂行します。スピード感のある会社では、「私はこれをやります」「じゃぁ、私はこれをやります」といったように、自分の得意分野で個人がリーダーシップを発揮していくのです。

チームがまとまっていく過程を目の当たりにすると、シェアードリーダーシップの理解が深まるのではないでしょうか。経験して学ぶのが一番よいですね。

――ではリーダー、ここでいう管理職や責任者が持つべきリーダーシップはどのようなものだと思われますか?

加藤氏:やはり、チームメンバーの力を発揮させていくことではないでしょうか。会社が目指していることやチームミッションの中で、個々の役割をいい形で結合していくことができる力ですね。

現在は変化が激しい時代で、現場でも次から次へといろいろなことが起こります。そういった状況の中で、一人ひとりがリーダーシップを発揮して自律して動く。その土壌をつくっていくのが、今のリーダーに必要なリーダーシップだと思います。

――メンバーがリーダーシップを発揮できる土壌をつくる力を養うためには、どうすればよいでしょうか?

加藤氏:人をちゃんと見て、共感すること。そして、自分のこともメンバーに理解してもらうことです。

リーダーにもダメなところや弱いところはあるわけです。素直に開示することが重要です。また、向上心を持って行動したり、新しいことにチャレンジしたり、姿勢を見せていくことが大事ですね。こういった自己理解や意欲の向上は、普段とは違う職場ではたらいたり役割を担ったりすることで得られたりもします。

リーダーシップ は“差分がある副業”で養われる

複業関係のイベントに登壇する加藤氏(写真提供:加藤 健太氏)

――「リーダーシップを養いたい、発揮したい」と考えたときには、どんな視点で副業を選べばよいでしょうか?

加藤氏:“差分がある体験”としての複業を選ぶとよいのではないでしょうか。

自分が現在持っている能力や経験値でできる範囲の複業は、ストレスはないかもしれませんが、成長のためにはチャレンジが必要です。予定調和では進まない場所に身を置くことで、周りを見る力もついてきますし、自分に何が求められているのかも考えるようになります。

複業をはじめとした“差分がある体験”を選んで、知見を広げていけば、自ずとリーダーシップは養われていくのではないでしょうか。

――副業などの越境学習は差分が大きく成長のチャンスは大きいと思いますが、副業を解禁する会社は、増えているのでしょうか?

加藤氏:厚生労働省が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を出して政府が推進していることもあり、申請・許可制で複業解禁するケースは増えてきている印象です。

ただ、実際に複業をしている人は、まだまだ少ないですよね。

――「副業している人は8.4%」という2024年の1月の調査※が出ていますね。どうして、副業は進まないのでしょうか?

※参照元:転職サービス「doda(デューダ)」:副業の実態調査【最新版】副業している人は8.4%、2年連続で増加

加藤氏:ひとつは、時間の問題ですね。本業ではたらきながら、どのように複業の時間を捻出するか。「やってみたいけど、時間がない」という話は、よく聞きます。

でも、私は時間よりもむしろ気持ちの問題のような気がしています。たとえば、コロナでリモートワークになって、通勤や帰宅の時間が浮いている人はたくさんいるはずです。本当にやってみたいと思っているのなら、時間は空けられるのではないでしょうか。

もうひとつは、会社の空気感ですね。就業規則に複業禁止とは書いていないけど、“なんとなくしてはいけない空気感”の会社もたくさんあると思います。

――副業に挑戦してみたいけど、一歩が踏み出せない。そんな時、どうすればよいでしょうか?

加藤氏:報酬をもらわずに、やってみることです。たとえば、プロボノです。報酬を発生させずに越境体験ができるので、会社にも認められやすいです。社外ではたらくとはどういうことなのか、自分は何がやりたいのかが、見えてきます。

あとは、日頃から周囲の人や友だちに、自分ができることや興味のあることを開示しておくことも大事です。自分以上に周囲の人が、自分の能力を知っていることはよくあるので、思わぬところから声がかかることもあります。

キャリアの悩みは、自分の中の「寝た子」を起こすことから解消へ

複業関係のイベントに登壇する加藤氏(写真提供:加藤 健太氏)

――管理職やマネジメントをしている層は、どんなはたらき方やキャリアの悩みを持っているのでしょうか?

加藤氏:管理職やマネジメントを任される方は、会社の中でも役割が固まってきていると思うので、「本当に今のままでいいのか」と悩むことはありますよね。そこには、主に2つの要素があります。

ひとつは、会社への不安です。会社がこのまま順風満帆であるかどうかは、わかりませんから。日本を代表する企業が揺らいでいるというニュースも目にします。このような問題がどの会社でいつ起こるのかはわかりません。

だから、自分の胸に手を当てて「本当にこの会社ではたらき続けたいのか」を考えてみてください。会社への愛着など、いろいろな思いがあって仕事をしているはずです。

――悩んだときは、立ち止まって内省する時間が必要かもしれませんね

加藤氏:会社側もチャレンジする人たちがいないと活性化しません。社外で複業などに挑戦することで得た知見や新しい価値観を会社に持ち込む。もしくは、プロ人材を活用する。そのようにして、会社内にオープンイノベーションを起こしていくとよいのではないでしょうか。

――副業や越境学習をすることで、自分がオープンイノベーションのきっかけになれるんですね

加藤氏:個人が与える組織への影響はとても大きいですよね。

管理職・マネジメント層のもうひとつの不安は、“自分への不安”です。「本当は違う仕事がしたかった」とか、「こんなチャレンジをしてみたかった」とか。抑えていた本音があるかもしれません。

そういう場合は、あえて自分の中の「寝た子」を起こして、行動してみることです。つまり、本音に従ったり自分から手を挙げて新しい仕事を始めたりすることです。

すると、人生の見え方が変わって、モノトーンだった景色がカラフルに見えてくることもあります。

――「自分にはこんな能力があったのか」や「これはもっと追求したい領域だ」など、発見があると自分の将来に自信が持てそうです。

加藤氏:複業でも旅でも何でもいいので、日常の延長線上から外れてみるのです。年齢を重ねると、いろいろなことがおっくうになってきます。目に入るものを、経験値から判断してわかったような気になってしまうのだと思います。

もう一度童心にかえって日常からはみ出し、自分の人生を彩っていく機会をつくることも大事です。

(書き手:コクブ サトシ/編集:佐野 創太)

加藤 健太

株式会社エンファクトリー 代表取締役社長

リクルートを経て、All Aboutの創業メンバーとして財務、総務、人事、広報、営業企画など裏方周りのあらゆることを担当し、取締役兼CFOとして2005年に IPO。その後、現在の株式会社エンファクトリーを分社し代表に就任。エンファクトリーでは「ローカルプレナーのための自己実現ターミナルの創造」を目指し、また、社内では「専業禁止!!」という人材ポリシーを打ち出して、関わる人々すべての「生きるを、デザイン。」を応援中。

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