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夢中で遊んでいたら、仕事になった。本業ではたらきながら”好きなことを仕事にしていくためのヒント”

記事のまとめ

  • 好きなことを仕事にするためには、自分自身を掘り下げ、自分の好きなことや楽しいことを自覚しておくことが大切である

  • 好きなことや趣味を仕事にすることには、リスクを伴う可能性もある。そのため、副業から始めてみることや、セーフティネットを築いておくなど、できる限りのリスクヘッジを行った上でチャレンジすることが重要

  • 好きなことを仕事にするために、まずは「相手も自分も嬉しいことは何か」を考えることで、チャンスが広がる可能性がある

「好きなことを仕事にできたらいいな」と、一度は考えたことがあるのではないでしょうか。副業や転職を考える人の中には、先の長い人生を考えたとき、自分の好きなことや興味のある分野で、自己実現に向けての一歩を踏み出したいと考える人も多いようです。

今回お話しをお聞きしたのは、株式会社VILLAGE INC.代表取締役社長の橋村 和徳さんです。橋村さんは、新卒でテレビ局へ入社。その後、ITベンチャー企業の立ち上げに参画し、営業責任者として9年間勤務しました。ハードにはたらく傍ら、息抜きとして行っていたキャンプを事業化することを決意し、会社を退職。現在は、全国各地で辺境地や遊休地を活かしたキャンプ場運営や、地域プロデュースサービスを展開する企業を経営しています。

本業ではたらきながら「遊び」として取り組んでいたキャンプを仕事にした橋村さんに、「好きなことを仕事にしていくためのヒント」を伺いました。

「夢中の遊び」が、仕事になるまで

――橋村さんが現在取り組まれている事業について教えてください。

橋村氏:私たち株式会社VILLAGE INC.は、「何もないけど何でもある」をモットーにしています。辺境地や遊休地を活かしたキャンプ場や無人駅を活かしたグランピング場の運営など、全国に10箇所ほど展開しています。廃校・廃墟などの地域資源を活かしたプロデュース事業なども行っています。

伊豆半島の辺境地を2年かけて自力で開拓した施設「AQUA VILLAGE」や、同じく伊豆にある「REN VILLAGE」は、船でしかいけない1日1組のプライベートキャンプ場です。他にも福岡県の糸島にある「唐泊VILLAGE」など、訪れるお客さんが主役になり、スタッフと一緒に「場」を作り上げていく新しいキャンプスタイルを提供しています。

――キャンプ場を始めたのはどういった経緯なのでしょうか。

橋村氏:私は佐賀県唐津の豊かな自然の中で育ったものの、華やかな世界への憧れがあり、東京の大学へ進学しました。卒業後も、東京ではたらいていましたが、ハードな日常とのバランスをとるために、仕事の暇を見つけては「秘密基地」を求めて、房総半島、三浦半島、伊豆半島を探索するようになりました。

そのなかで静岡県下田の海沿いでキャンプをするようになりました。この体験があまりに楽しく、友人を1人、2人と誘ううちに、人伝いにコミュニティが広がっていきました。

当時勤めていた、ITベンチャー企業のメンバーたちをキャンプに連れて行くと、日常の鎧を脱ぎ捨て焚火を囲むことで、皆が本音を語り合い相互理解を始めたのです。組織の風通しが良くなったことで、離職率が下がり生産性も上がりました。また、プライベートキャンプで出会った人たちが仕事でもコラボレーションを始めました。

この体験からプライベートキャンプをビジネスとして世の中に提供することで、日本を元気にしたいと考えるようになったのです。

西伊豆の海にある「AQUA VILLAGE」(画像提供:橋村氏)

――遊びが事業になったきっかけや原点について教えてください

橋村氏:さかのぼってみると自分の幼い頃の経験が影響しています実家の近くには映画館があり、幼い頃から映画やエンターテイメントが大好きでしたまた、私が生まれ育った町は海に面していて、小学生時代には登校前に海へ潜って魚を捕まえるのがいつもの遊びでした。

この「遊び」が、今のキャンプ事業に繋がっています。当社はキャンプ場を運営しているため、アウトドア事業だと思われるのですが、実はやっていることは「エンターテイメント」なのです。

私にとってのキャンプは、整備された場所でのオートキャンプではなく、幼い頃から遊んでいたビーチキャンプ。現在運営しているAQUA VILLAGEや唐泊VILLAGEもその影響もあってビーチキャンプスタイルです。

焚火を囲んで語らうことで、普段とは異なる会話が生まれる(画像提供:橋村氏)

仕事も好きなことも、全力でやっていたら訪れた転機

――起業する前は、どのようなキャリアを歩まれてきたのでしょうか?

橋村氏:大学を卒業後は、念願のテレビ局へ入社しました。当時はテレビ局が映画をたくさん作っている時代だったのです。当時は制作を希望していましたが「よく喋るから」という理由で、営業に配属されました(笑)。

配属後は大手顧客を相手に、CMを獲得するなどやりがいを感じていましたが、3年も経つと飽きが生じてきました。ちょうどその頃は、2000年代。ITバブルの時期です。営業力を見込んでくれた顧客先の社長から誘いを受けて、ITベンチャー企業の創業メンバーとして参画しました。

売上の約7〜8割、何十億円もの数字を担う営業組織のトップとして、東証マザーズへの株式上場や海外進出の陣頭指揮に当たった後、2009年に退職。同年、伊豆下田市に移住し、本格的にキャンプ場の開拓を開始しました。2011年に個人事業主として独立、その後2012年に株式会社VILLAGE INC.を設立しました。

――起業までの期間は、本業と副業のバランスをどのように取っていたのでしょうか。

橋村氏:もともとプライベートキャンプは、ハードな仕事の息抜きでした。ですので、休日に開催することでバランスが取れていました。その後プライベートキャンプを息抜きではなく、事業として構想し始めます。しかしその頃は、ITベンチャー企業で責任ある立場にもいましたし、上場後、海外進出の指揮をとって中国へ赴任することにもなったので、すぐに起業しようとは考えていませんでした。

――起業に至った経緯について教えてください。

橋村氏:結果として、海外へ赴任したことが、起業を決断するきっかけとなりました。赴任先で挫折を味わったのです。

国内では向かうところ敵なしで成果を上げてきたのに、中国では業績が振るいませんでした。言葉の壁に阻まれ、強みであるコミュニケーション力を上手く活かすことができなかったのです。また、水と空気が合わず、自然のない環境にも耐えきれなくなりました。

そこで、以前から構想を練っていたキャンプ事業で起業することを決意し、退職しました。

好きなことを仕事にするためには、自分自身を知ることが大切

――橋村さんが仕事を選ぶ際に重視していることを教えてください。

橋村氏:仕事を選ぶ時に一番重視していることは、「自分が楽しいかどうか」ですね。社会的に意義があるか、社会貢献になるかは、後付けでいいと思っています。正義感や社会的意義というだけでは事業を続けることは難しいと考えています。

僕は子どもの頃から映画が好きで、映像を作ることを通して人を楽しませたいと思っていました。今やっていることも、アウトドアを通して人を楽しませる「エンターテイメント」事業だと思ってやっています。

――そう思われる背景にはどのような体験があるのですか?

橋村氏:ITベンチャー企業で営業組織の責任者をしている時に、コーチングを学びました。当時は上場を目指すために目標必達を求められるハードな環境で、離職者も多い状況。メンバーをケアすることで組織を改善したいと学び始めたのですが、セルフコーチングにより自分のミッションや生きる意味を深く掘り下げたことで、僕自身にとっても大きな気づきとなりました。

その時にわかったのは、自分は楽しいことや好きなことをしている時にリーダーシップを発揮し、成果を出すことができるタイプだということです。だからこそ僕は、自分が好きな「エンターテイメント」で人を楽しませることを仕事にしました。そう考えると、子どもの頃から好きだったことが今の仕事につながっているんですよね。

もし好きなことを仕事にしたいのであれば、まずは自分自身を知ることから初めてみると良いのかもしれません。

限りある時間をどう使うのか

――好きなことや夢中になったことを趣味や副業ではなく、本業として取り組む理由を教えてください。

橋村氏:35歳の時に死を身近に感じる体験をしたことから、限りある時間を自分の好きなことだけに使おうと決めました。ITベンチャー企業の退職を決意し、起業の準備を始めた矢先、健康診断でリンパ癌が見つかりました。会社の退職も決まり、「さあこれから起業だ」というタイミングで、胃を全摘すると告げられ、とてもショックを受けました。

しかしセカンドオピニオンを取得し、胃の全摘手術をすることなく、放射線治療を受けることですみました。元々やりたいことに突っ走るタイプではありましたが、この経験から、命ある時間は限られているからこそ、より自分がやりたいことだけをやっていこうと心に決めました。

――その際に、起業ではなく転職という選択は考えられなかったのでしょうか。

橋村氏:もちろん会社員として転職した上で、趣味としてプライベートキャンプを続けていく選択肢もあると思います。ITベンチャー企業では、裁量あるポジションも経験していたからです。しかし、当時は転職については全く考えていませんでした。やはり死を身近に感じる経験をしたことから、限られた自分の時間をどう使うかと考えた時に、趣味も仕事も一緒がいいと思ったのです。

――趣味と仕事を一緒にすることに、リスクも感じますか?

橋村氏:もちろん僕のように、趣味と仕事を一緒にすることにはリスクも伴います。だからこそ、まずは副業として始めてみることや、最低限の蓄えやセーフティネットを張った上でチャレンジすることが大切だと考えています。

今すぐにチャレンジすることができなくても、例えば会社ではたらきながら、向こう3年間は収入ゼロでも生活ができる蓄えを作っておくとか、仮に失敗してもはたらける場所や雇ってくれる人との関係性を築いておくといった、できるアクションを積み重ねることが大切なのではないでしょうか。

――「遊びを大切にされている」橋村さん、そのほかにもはたらき方や生き方において、大切にされていることがあれば教えてください。

橋村氏:「自分が楽しくないことはやらない」と、決めています。誰しも子どもの頃から好きなことや楽しいことってあったと思うのです。しかし、大人になるにつれて「楽しいだけではダメ」とか、「好きなことと仕事は別だ」と言われることも多くなるのかもしれません。でも僕は、年を重ねるに連れて「楽しいことしかしたくない!」という気持ちが強くなっています(笑)。

何しろ、残りの人生は短くなっていく一方ですからね。

――橋村さんが行動を起こす際の、原動力について教えてください。

橋村氏:僕自身の根っこにあるのは、「自分が楽しみたい!」という思いです。もちろん、好きなことをさせてくれた親や周りの人にも感謝していますが、僕にメンターがいるわけではないです。

会社員時代に空地を一人で開拓していた時も、プライベートキャンプを開いていた時も、自分が心から楽しいと思えることをしているから、それを共有することで「みんなを楽しませたい」と思うのです。一人で始めたキャンプには、最終的に100人ほどの人が集まり、祭りになりました。

だから何よりも大切なことは、まずは「自分が楽しい!」と思うことをやること。それが新たな行動を起こす原動力にもなるのではないでしょうか。

無人駅、JR上越線「土合」駅に併設しているグランピング施設「DOAI VILLAGE」(画像提供:橋村氏)

自分も相手もWin-Winになることを考えて提案してみる

――ビジネスパーソンが好きなことや興味のあることへ、新たな一歩を踏み出すためには、どのようなことが有効だと考えますか。

橋村氏:難しい質問ですね。「どうやったら一歩踏み出せますか?」と講演会でもよく質問されます。その際に、「なぜあなたはこの場にいるのですか?」と、尋ねることにしています。講演を聞きに来てくださることや、この記事を読んでくださっているという事実に、理屈はないと思うのです。何かしら自分の琴線に触れるものがあるから行動しているわけです。その時点で、その人はもう一歩を踏み出していますので「行動をするためには、あともう少しですよ」と伝えています。

先ほど副業の話をしましたが、好きなことや興味のあることに一歩踏み出すために、最初から副業をするという形にこだわらなくてもいいと思います。まずは身近な行動の一歩として、自分が好きで常連として足を運んでいる飲食店や施設、コミュニティのためにできることを考えて提案してみることが良いのではないでしょうか。

――さらに副業を考えている人が一歩を踏み出した際には、どんなWin-Winの関係が起きるのでしょうか?もしアイデアやエピソードがあれば教えてください。

橋村氏:例えば、当社が運営するキャンプ場で副業の一歩を踏み出す際のアイデアとしては、常連さんが幹事となり、顧客をたくさん連れてきてくれることが考えられますよね。当社にとっては、いわば旅行代理店の役割を果たしてくれていることになります。そして常連さんにとっては、それが副業にもなりますよね。このように「自分にも相手にとってもWin-Winの関係が築けることは何か?」と考えてみると良いですよね。

また、私がコンサルティングや講演会の仕事をする際に、議事録を作成してくれるスタッフがいるのですが、彼は元々キャンプ場の常連さんでした。スタッフを探していたわけではなかったのですが、頻繁にお会いして交流が深まる中で、その人の強みや人柄を知り、仕事を依頼させていただくことになったのです。

実はこの時、常連さんから積極的なアプローチがあったわけではないのです。しかし人柄や強みを自己開示しておくことで、「こういう人がいるのなら、こんな仕事がお願いできるかも」というように、ニーズが顕在化することで副業のチャンスに結びつく可能性もあるのではないでしょうか。

――最後に、「好きなことを仕事にしたい」と考えている方にアドバイスをお願いします!

橋村氏:私はマーケティングや調査分析という取り組みが好きではないです(笑)。お客さまが想像し得ない世界を提供するのが自分たちの仕事なのに、「お客さんにニーズを聞いてどうするの?」と、思います。この考え方は、「好きなことを仕事にするために一歩踏み出す」際にも同様だと思います。

好きなことを仕事にしたいなら、「ニーズはあるのか?どんな人を探しているのか?」と自分に問うよりも、「どうしたら相手に喜んでもらえるか」を考えて、まずは目の前の人に提案してみることが、小さな一歩になるのではないでしょうか。

(書き手:さおりす/編集:永見 薫)

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