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あのドラッカーが明言していた!?私たちが副業をする意義とは
記事のまとめ
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副業をする意義は、2000年より以前に既に説かれていた
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ドラッカーの『明日を支配するもの』では、個人の生き残り戦略のカギとして「パラレル・キャリア(第二の仕事)」が勧められている
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人間の方が組織よりも長命となった現代では、「パラレル・キャリア=副業」が現実的な働き方である
目次
ピーター・ドラッカーは持ち前の経営理論で今も読者に示唆を与え続けている。たとえば彼の主著『マネジメント』は、経営者や管理職をはじめビジネスパーソンの必読書として多くの場で紹介されている。
そんなドラッカーがかなり前から副業の勧めを説いていることはご存じだろうか。一例をあげよう。1999年に邦訳が出た『明日を支配するもの―21世紀のマネジメント革命』(ダイヤモンド社)で彼は、「パラレル・キャリア(第二の仕事)」、いわゆる副業(または複業)がこれからの生き残り戦略のカギになると述べている。副業という語が日本ではまだ「お小遣い稼ぎ」の域を出ていなかった当時にあって、だ。
ここでは、ドラッカーが描く「副業をする意義」を紹介する。
ドラッカーの(邦訳)原典にあたってほしい
みなさんはドラッカーの(邦訳)原典を読んだことはあるだろうか。若い世代であれば、岩崎 夏海の「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(通称「もしドラ」/ダイヤモンド社)でドラッカーを知った人もいるかもしれない。同著は一大ブームを巻き起こした。筆者の友人の中にも、この本に感化された人は少なくない。一方で、「もしドラ」を読んでドラッカーの『マネジメント』(ダイヤモンド社)を読んだ気持ちになっている人もいたのかもしれない。みなさんの周囲はどうだろうか。
あたり前の話だが、「もしドラ」と『マネジメント』は同じではない。
企業にはさまざまなステークホルダーがいる。企業は、それらに開かれている(=閉鎖空間ではない)。
ドラッカーの生の言葉は、あくまでも「開かれた」企業体などの組織、そしてビジネスの世界などでより活きてくるものだとされている。
本稿を読んだことを期に、読者にはぜひドラッカーの(邦訳)原典に挑戦してほしいと思う。
企業や組織を論じながら「個人」にも温かい目を向けたドラッカー
ドラッカーは、倫理的価値として「自由」を大切にしている。そのスタンスは生涯変わらない。組織に翻弄される「個人」をいかにして自由にさせるかが彼のテーマである。
ドラッカーは、マネジメント論をはじめ多くの理論において、組織の中で弱い立場になりやすい「個人」に「役割」と「自由」を与えるものとして組織やマネジメントが存在するのだ、という考えを示唆・表明している。
ドラッカーというと「企業レベルの組織論を論じる人」というイメージを抱く人もいる。それは一面、事実ではある。だがドラッカーは、組織と同時に「個人」にも焦点をあて、みなが幸せに働ける環境作りも目指した。
組織よりも人間の方が長命になった時代に必要なこととは
そんなドラッカーが「これから求められる『個人』のあり方」について論じる中で出てくるのが副業の話である。
いま日本では、「人生100年時代」が声高に叫ばれている。実は、ドラッカーの時代にもすでに似たようなことが指摘されていた。ドラッカーは『明日を支配するもの』で以下のように述べている。
「今日の先進国の平均寿命では、人は70代、80代まで生きる。これに対し、企業をはじめ組織の平均寿命は30年そこそこである。しかも今日のような乱気流の時代にあっては、あらゆる組織がそれだけの寿命を保つことは難しい」(趣意)
「組織で働く人たち、特に知識労働者は、自らの組織より長生きする。それゆえ、これからは仕事を変えることができなければならない。キャリアを変えなければならなくなる」(同)
この状況を踏まえた上でドラッカーは、個人が生き抜くための作法として、「自らをマネジメントする」ことの必要性を訴える。具体的には、以下を問うことを勧めるのである。
- 自分は何か。強みは何か。
- 自分は所をえているか。
- 果たすべき貢献は何か。
- 他との関係において責任は何か。
- 第二の人生は何か。
これらを自律的に問うことで成長を期すのが、「自らをマネジメントする」のコンセプトになる。それぞれデフォルメして解説したい。
「自らをマネジメントする」上で押さえるべきポイント
1.自分は何か。強みは何か。
誰もがわかっているようでいて意外と知らないのが「自分の強み」である。ドラッカーは強みを発見することを勧める。そして、発覚した強みを伸ばし、活用することに集中せよと言う。加えてこの項目では、自分に合った仕事の仕方や学び方などを採用することも勧められる。
2.自分は所をえているか。
ドラッカーは、自らの特性に合った企業や職場を選ぶことの大切さを訴える。
3.果たすべき貢献は何か。
長期継続雇用が難しい時代にあっては、最初の就職先に一生を捧げようという人は少なくなる。多くの人がさまざまなキャリアプランを考えるようになる。その「キャリア」は本人以外が計画できるものではない。
そこでドラッカーは、「自らが何に貢献したいか」を問い、答えを見いだし、それを指標とすることを勧める。そして、どこで、いかにして貢献するかをまた問い、その場を求めていけと言う。
4.他との関係において責任は何か。
組織人として生きるにしても独立するにしても、他人の力を借りて成果をあげることに変わりはない。
そのためドラッカーは、人との関係に責任を負うマインドを持つことを勧める。共に働く人たちと相互理解を深めていくことの大切さを説く。
「第二の人生」を豊かに生きるために役立つ「パラレル・キャリア=副業」
そして、いよいよ⑤で副業の話が出てくる。
5.第二の人生は何か。
人間の方が組織よりも長命となった現代にあっては、第二の人生を考えざるを得ない。では、何をすれば良いのか?ドラッカーは、転職などによって組織を変えること、篤志家(とくしか)になって非営利の仕事を始めること、そして「パラレル・キャリア(第二の仕事)」を持つことの三つの方法を提示する。
最後の項目が、副業の勧めである。もしも本業以外に軸足を置くことのできる場を作れたとしたらどうか。その人はそれを頼りにピボット的に(本業として)はたらいていた場所から離れることもできる。
そうなのだ。ドラッカーは、長い人生・キャリアを生き抜く知恵として、「パラレル・キャリア(第二の仕事)=副業(または複業)」を推奨したのだ。仮に本業の企業が倒産したとしても、副業があればしなやかに生き延びる可能性が増す。副業を次のキャリアにつなげることもできる。
たとえば、企業に勤めながら、憧れだったライティングの副業を始めたとしよう。仕事が軌道に乗れば、本業「だけ」に寄り掛かった状態から抜け出し、本業「も」している、という状態になる。すると、副業を寄る辺としながら、やがてライティングで食べていけるようにすらなるかもしれない。書く仕事は、その気になれば高齢になっても続けることができる。そうなれば、あなたの第二の人生は文筆家として再出発できるものになるかもしれない。
第二の人生が来ることが確実だという心構えを持ち、準備をしておく。そのための副業である。このようなドラッカーの副業の勧めは、21世紀も四半世紀を過ぎようとしている現在にあって、輝きを増している。彼は、そんな指摘を『明日を支配するもの』発刊の1999年時点ですでに行っていたのだから驚きである。
「すでに起こった未来」を使うというドラッカーの視点
なぜドラッカーはそのような慧眼を持てたのか?
『断絶の時代』(ダイヤモンド社)でドラッカーは、「起業家の時代」「グローバル化の時代」「知識の時代」等の到来を指摘し、『見えざる革命』(ダイヤモンド社)で高齢化社会の到来を知らせた。これらはまさに現代に生きる私たちが直面している事態である。
世を驚愕させた彼の先見性は、人をして「(ドラッカーは)20世紀に身を置きながら21世紀を支配する思想家」とも評させるに至った。彼の予期能力はどこから来るのだろうか。彼は言う。「すでに起こった未来を使え」と。他方でドラッカーは「私は未来学者ではないし、予測はしない」とも語っている。その真意は?
ぜひ(邦訳)原典にあたってほしい。先を見据えて、息の長い副業を選ぶ上でもドラッカーの視点は役に立つだろう。
(執筆:正木 伸城/編集:佐野 創太 /監修:HiPro Direct編集部)